タイトル・年金改革の全容

 今年は年金制度の5年に一度の見直しが行われます。去る2月10日、政府は年金制度改正法案を閣議決定し、国会に提出しました。しかし、その内容は問題の根幹にメスを入れることなく、相も変わらず「負担増・給付削減」を繰り返すだけのものであり、到底「改革」と呼べるものではありません。
 これ以上、私たち「働くもの」がバカを見る年金改正を許し続けるのか?それとも真の改革を求めて「NO」と言うのか?今まさに、私たち一人一人の審判が求められています。
 本号では、「年金の基礎知識」から「何が問題か」、そして「真の改革の姿」に至るまでを分かりやすくまとめました。この記事を読んで、一人でも多くの組合員に問題意識を抱いていただければ幸いです。
(賃金部長 後藤克己)

[1]公的年金制度の基礎知識

I 公的年金制度のしくみ

 「公的年金」は、老後生活の基本的部分を支えるために国が管理運営する社会保障制度です。
 現在の制度は、被保険者の働き方に応じて1号〜3号に区分されています。私たち公務員は民間サラリーマンと同様に「2号被保険者」に該当し、「基礎(国民)年金+報酬比例年金」の2階建ての制度となっています(図1を参照)。
 財源は保険料(加入者の掛金と使用者負担)と税金(基礎年金の1/3を国庫負担)ですが、年金受給者の給付に必要な財源を現役世代の保険料でまかなう「世代間扶養」の考え方で運営されています。
図1「公的年金の仕組み」

II 公的年金の抱える課題

1.最大の課題は「空洞化」による「支え手」の減少

 年金制度をめぐる最大の課題は、国民の年金不信とそこから生じている「空洞化(未納者の増加)」にあります。現在、1号被保険者の未納者は約900万人にも達しており、年金制度は危機に瀕していますが、その背景にあるのは、「どうせ将来もらえないなら、今払っても仕方ない」という国民の意識です。そして、このような不信感の原因は、目先の年金財政の安定を優先し、「負担増・給付減」を押しつける改革を繰り返してきたことにあります。

2.雇用形態の多様化、女性の社会進出も重要な課題

 雇用形態の多様化により、パートタイマーや契約社員などの非正規労働者が増加しています。これらの非正規労働者が、使用者負担を避けようとする会社側の都合により、厚生年金に入れないケースが増加しており、このことも「支え手」の減少を加速させています。
 また、「年収130万未満、週労働時間30時間未満は厚生年金適用除外(3号被保険者になる)」という縛りが女性の社会進出を阻害しているだけでなく、「支え手」不足を生んでいるという問題も重要な課題です。

[2]政府改正案のポイントは何か

(【○】…評価できる、【×】…問題あり、【△】…不十分)

I 保険料上限の大幅引き上げ…【×】

  1. 厚生年金保険料率を 13.58% → 18.30% に大幅引き上げ!(図2、3参照)
     (2004年10月から毎年0.354%ずつ引き上げ、2017年度以降
      18.30%)
  2. 国民年金保険料を 13,300円 → 16,900円 に大幅引き上げ!
     (2005年度より毎年280円ずつ引き上げ、2017年度以降16,900円)

II 給付水準の大幅引き下げ…【×】

 現役世代手取り賃金の 59.4% → 50.20% に大幅引き下げ!
 (標準的な年金ケースで試算すると、年間約43万円のダウン!)

III 基礎年金(国民年金)の国庫負担割合見直しの先延ばし…【×】

 国庫負担割合の引き上げ(=税方式化)によって負担の公平を図ることにより、「皆年金制度」の再構築を行うことは急務の課題である。
 このため、5年前の年金改革で、「当面2004年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合を2分の1へ引上げるものとする。」と明言したにもかかわらず、これを2009年度まで先延ばしとなった。

IV 多様な生き方・働き方に対応

  1. パート労働者への厚生年金の適用拡大は5年後に再検討(先延ばし)…【×】
  2. 育児休業期間中の保険料免除期間を1年から3年に延長する(2005年度から)…【○】

V 女性と年金の問題…【△】

 第3号被保険者期間について、離婚した場合に配偶者の厚生年金の1/2を分割できる制度を導入。
図2「厚生年金保険料の引き上げ(政府案)」
図3「保険料負担の試算(個人負担分)」

[3]指摘すべき問題点は何か

I 抜本改革を先送りのまま保険料引き上げ・給付引き下げ

 政府改正案の最大の問題点は年金の「空洞化」状況に対して全くの無策であるということです。
 年金制度改革の最大の課題は「空洞化」であり、その根底には目先の年金財政の安定を優先し、「負担増・給付減」を繰り返してきたことに対する不信感があること。また、雇用形態の多様化等も「支え手」の減少を加速させている問題であることは前述したとおりです。
 よって、今求められている改革とは、支える側の負担のあり方を抜本的に改革し、国民全体の納得が得られる制度を作ることに他なりません。「国庫負担割合の引き上げ」「パート労働者への厚生年金適用拡大」「第3号被保険者の縮小」などの改革により、世代間・働き方などの違いによる不平等を解消することが必須の課題です。
 しかし、これらの改革を先送りしたまま、またもや過去と変わらぬ「保険料引き上げ・給付引き下げ」を繰り返そうとしているのです。

II ツケを若い世代に押しつけるだけの見せかけの改革

 次に指摘すべき問題点は、若い世代に財政悪化のツケを押しつけようとしている点です。
 政府は「少子化」「高齢化」の状況を必要以上に強調し、保険料引き上げ・給付引き下げを当然のように説明しています。しかし、そもそも年金財政を悪化させている原因は、高度経済成長期に財源の裏付けも無いまま高い給付を約束してきた見通しの甘さにあります(※)。しかし、現在の年金受給者や団塊世代の負担増は殆どありません。
 今行われようとしているのは、財源の裏付けの無い「過去の給付の約束」を守ることにより年金受給者・団塊世代層の期待に応え、その負担は若い世代に押しつけようとする見せかけの改革と言えます。このような改革を続けているからこそ、若い世代の年金に対する不信感を強めているのです。
図4「厚生年金のバランスシート」

(※)図4は厚生年金のバランスシート(2000年度末時点)です。2000年度末時点より将来の期間に関しては、保険料率が現行(13.58%)のままでも給付と負担はほぼ均衡しています(図右)。しかし、過去の期間に対しては、大幅な債務超過(約450兆円)となっています(図左)。このことから、過去における給付の約束が年金財政を悪化させていることが分かります。

[4]求められる真の改革とは

 以上の問題点を踏まえた「真の改革」を断行していくために、以下に述べる3つの改革が必要となります。

I 「空洞化」解消の切り札、「税方式」の導入

 最大の課題である「空洞化」を克服するための決め手は年金の「税方式化」です。
 連合・自治労は今回の改革で「基礎年金の国庫負担を2分の1への引き上げ」を求めているだけでなく、将来的には基礎年金の全てを国庫負担でまかなうべきと主張しています。そして、その税財源としては「年金目的間接税」が望ましいとしています。何故なら、間接税は全ての国民が等しく負担する財源だからです。なお、連合の試算によると、3%程度の間接税により現行の給付水準を維持しながら保険料率も15%程度で維持できることが可能になります。
 また、基礎年金がすべて税方式化されると、第1号〜第3号の被保険者区分が消滅しますので、[1]で前述した「第3号被保険者問題」も解消します。

II 働き方に中立的な制度の構築

 働き方の違いによる負担の不公平の解消も重要な課題です。
 雇用形態の多様化に対応するため、厚生年金の適用基準の見直しが必須の課題です。具体的な主張として、連合・自治労は「年収130万未満、週労働時間30時間未満は適用除外(3号被保険者になる)」の基準を、「年収65万未満、週労働時間20時間未満」に見直すことを求めています。しかし、使用者負担の増加を嫌う経営者団体を中心に反対がおき、改革案では「5年後に検討」という極めて消極的な姿勢に終始しています。
 また、この問題は女性の社会進出を推し進める上でも解決せねばならない課題です。
図5「世代別に見た年金給付額と保険料負担額」

III 年金受給者層からも一定の協力を求める

 先述したとおり、年金財政を悪化させている原因は、高度経済成長期に財源の裏付けも無いまま高い給付を約束してきたことにあります。図5の給付倍率を比較して見ても、現在の年金受給者層がいかに恵まれた年金を貰っているかが分かると思います。
 今回の改正案も含め、これまで将来世代を対象とした「給付削減」ばかりが行われてきた一方で、年金受給者層については「給付の約束」に対する期待権があること等を理由に殆ど手つかずに来ました。しかし、年金は親子で1つの財布(財源)の中身を分け合う制度です。受給者の期待権を守るために、息子や孫の世代が犠牲となって良いのか?という議論を先送りにしてはなりません。
 具体的には、年金額の高い層を中心とした給付カット、年金課税の強化、所得税控除の縮小・廃止などの方策が検討されるべきですが、これらは政府案の単なる「給付削減」とは違い、「年金受給者層からの将来世代に対する協力」なのだということを理解してもらう必要があります。